述懐

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大学生くらいの頃、母が真顔で私の顔をじっと見ながらしみじみと「あんたは美人じゃないけれどブスじゃないのね」と言ったことがありました。

何故そんなことを覚えているかというと、消化不良というのか、どのようにその言葉を受け止めるべきだったのかいまだにわからないからです。

そもそも母は、自分で自分のことを美人だと思っていたと思います。父が出張で高知県に行った時に泊まった旅館が母の親族の経営する旅館で、たまたまその日手伝いをしていた母に一目惚れしたのだそうです。それだけ目立つ顔立ちだったということなのでしょう。若い頃の母は確かに綺麗だったと思います。

私は両親にはあまり似ていなくて、その母親、すなわち私の祖母たちに似ています。ごく平凡な、ぱっとしない普通の容姿です。微妙(笑)なのです。ですので、母の言葉を意訳すると「お前は私の娘にしては美人ではない」というものになります。

母はずけずけものを言う性格なので、その言葉は決してけなしてはいなかったということはわかるのですが、美人でもブスでもない存在にようやく気づいた、というようなニュアンスがありました。綺麗に生まれついた人にはそうでない者の気持ちは理解できないだろうな、という埋まらない溝を感じてしまったのも事実です。

綺麗な人には綺麗な人の苦労はあるのだと思いますが、微妙な容姿の者にもそれなりの苦労があります。例えば毎朝のメイクアップや服の選択が美を上乗せする楽しい作業になる人と、欠点を隠す作業になる私とでは違った世界を見ているのではないかと思います。

大学生くらいになるとさすがに世の中見た目だけだとは思わなくなっていますが、一方で自分の容姿に対する異性の評価もよくわかるので、母の言葉が余計に記憶に残ったのでしょう。

一般的に、女性が私のような微妙な顔の女性を表現するときには、無難に「かわいい」という形容詞を使います。そのことで、微妙な容姿の持ち主は、人からかわいいと言われたからといってそれを真に受けてはいけないということも当然ながらわかるようになります。

そのように人の言葉の裏を読む必要があるので、微妙な顔の女性の心は複雑というのかある意味ひねくれてしまうところがあるのです。

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