鬱病が酷かった頃、同じような境遇の人をネットで探していたことがありました。今のように、毒になる親という言葉も広まってはいなかった当時のことです。自分は家庭環境が原因で鬱を発症したのではないかと思い当たったものの、そのような書籍なども当時はあまりなく、もしも実際に自分と同じような経験をした人がいたら話してみたいと思ったからです。
詳細は個人情報に関わるので書きませんが、そのような経緯で知り合った人は、主治医に対する不信感をつのらせたあまり、利害が一致する製薬会社と医療関係者が鬱病を作り上げたのだ、という陰謀論を信じるようになってしまいました。
私自身ベンゾジアゼピンの離脱症状でまだ体調は良くないので、薬に対しては盲信しないよう心がけていますが、自分が鬱になった経緯からも、製薬会社と医師が結託して鬱病を作り上げたという陰謀論には首を傾げざるを得ません。同様のことが新型コロナウイルス感染症についても言われており、蔓延はワクチン利権を持つ者の陰謀ではないか、とまことしやかに囁かれています。
陰謀論は、とても魅力的です。多くの事象が複雑に絡み合った現実世界を、簡単に一刀両断しているように見えるからです。陰謀論に触れることは、自分だけが真実を知っているという優越感をももたらします。特に、最近はネットの情報しか見ない人も多く、それは探している情報しか見つからないというインターネットの弱点を過小評価しているのではないかと思います。
何よりも陰謀論は、例えば鬱病なら鬱病について真摯に研究している人や、治療に取り組む人を愚弄するものです。
それは疑似科学にも似て、有害な結果をもたらすことがあります。助産師が新生児にビタミンKを与えず、ホメオパシーのレメディを与えて死亡させた事件は記憶に新しいです。
陰謀論や疑似科学に取り憑かれた人を説得するのは、実は容易ではありません。自分で自分を洗脳しているところがあるからです。
そのためには何が必要かと言えば、混沌とした世界に耐える強さと謙虚さです。
世の中には正義のヒーローも純粋な悪人もいないということを、難しい問題に対する簡単な解決策などないということを、理解しなければならない。もっと言うならば、人類の歴史の重さを感じなければならない。真実を求めた多くの先人の苦労を嘲笑するのは、考えの浅い小児の業です。さらに言うならば、歴史の重みをもってしてもなお人間は万能でなく不完全な存在なのだということを、噛み締めなければならない。
その人は薬を飲むことをやめてしまったようですが、食事で鬱が治るという類いの説に騙されていないことを願っています。
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