夏目漱石は、すべての悪は「我」から生じると考えていたことが伺えます。死によって未完となった「明暗」を読むとそのことがよくわかります。
我欲。
それはものごとを成し遂げる原動力でもありますが、それに囚われている限りは幸せにはなれません。世界は自分を中心に回ってはいないからです。
ですが、凡人である私にはそれを捨て去ることはとても難しいです。
特に今の社会では自分の限界を自覚せずにすむので、若い頃にありがちの自分は何でも出来る筈という思い込みをただすことが出来ません。そして何かの拍子に一度その思い込みが壊されると、今度は180度逆転して自分には「何も」出来ないと思い込む。
何というのか歴史や宇宙の中での自分の位置と役割を悟る、ということが我欲の対極にあると思います。
おそらくそれは宗教や信仰の役目だったのですが、自分よりも大きな存在を心底実感したことがないと、我欲に囚われたままになってしまうのではないかという気がします。
我欲を発散する時にはせめてそれを自覚しておかないと、自分だけでなく他人も傷つけることになります。漱石が言う「無意識の偽善」、無意識の悪が最も罪深い。
私自身はまだ我欲を捨てることは出来ませんが、ほんの少し自覚くらいは出来るようになったかも知れません。
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