以前、存命の日本人作家で私が好きな人は花村萬月と山田詠美だということを書きました。今日は山田詠美について書こうと思います。
と言っても私はあまり熱心な読者ではなく、初期の短編集のいくつかと『トラッシュ』『Animal Logic』、2010年に起きた大阪2児餓死事件を題材にした『つみびと』くらいしか読んでいないと思います。
その中で私が最もいいと思ったのは『トラッシュ』で、繊細な感情の描き方がフランソワーズ・サガンの作品によく似ていると思いました(Wikipediaを見たところ、ご本人もサガンが好きだという記載がありました)。パートナーの連れ子に対する主人公の思いの変化の描写など、素晴らしいと思います。
ですが、最近読んだ『つみびと』については、少し首を傾げるところがありました。いわゆる毒になる親に育てられた人の三世代の虐待の連鎖を題材にしているのですが、ストレートにその苦しみは描かれず、ふわっと優しく描かれ、ファンタジックな印象を受けました。『トラッシュ』の微に入り細にわたった心理描写に比べると、焦点がぼけているような印象です。それは、亡くなった子供のモノローグとしてお伽話風の描写があるからかも知れませんし、私自身にそのもととなった事件についての記憶がほとんどなかったことも理由の一つかも知れません。あるいは、私自身の毒親経験とは違っていることが気になっただけかも知れません。いずれにしてもこれはノンフィクションではなくて事件をもとにしたフィクションなので、虐待が真に迫っていないという批判は見当外れなのでしょう。
それはともかく、人の心など構っていられないような余裕のない荒れた生活を送っていると忘れてしまう、みずみずしい感情の動きを描く才能はずば抜けているのではないかと思います。
そして作品を読むと、彼女が「自由」を何よりも大切にしていることが伝わって来ます。
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